別居中の夫に生活を請求したい

パートで働いている主婦E子さんから、以下のようなご相談をいただきました。

夫は半年前に自分から家を出ていきました。別居後も家のローンは払ってくれていますが、生活費は払ってくれません。私はパートで働いていますが、2人の子供を育てていて生活が苦しいですし、私には離婚する意思はありません。夫に生活費を払ってもらう方法はありますか?』

夫婦において、夫は婚姻費用(家庭の生活費と子どもの教育費)を保障する責任があります。

共働き(パートを含む)ならば双方の収入を考えたうえで、婚姻費用を夫婦で分担することが、民法760条で示されています。

別居していても当然、夫はその義務を負っています(これを婚姻費用分担義務といいます)

E子さんも、このまま泣き寝入りすることはありませんので、しっかりと手順を踏んで、ご主人に婚姻費用の支払いを求めていく必要があると思います。

さて、婚姻費用の額や支払い方法は、まず夫婦の話し合いで決めます。

婚姻費用自体、決まった額の定めがあるわけではないので、お互いの収入や財産、子供にかかる教育費の額などを考慮して、協議決定するのが基本です。

ただし、E子さんのように夫が生活費の支払いを拒否していて協議できなかったり、協議しても金額の折り合いがつかないときは、夫の住所地を管轄する家庭裁判所に婚姻費用分担義務の調停を申し立てることができます。

E子さんは離婚を望んでいないということですので、円満な夫婦関係の回復を求める夫婦関係調整調停と婚姻費用分担調停を併せて申し立てることもできますし、婚姻費用分担調停だけを申し立てることもできます。

家庭裁判所の調停をすれば、夫に支払い命令を出してくれると思われるかたもいらっしゃいますが、調停はあくまでも話し合いなので、強制力はありません。

イメージ的には、これまで夫婦間で話し合いを試みていたが、今後は家庭裁判所に話し合いの場を移し、『調停員』のもとで話し合いを継続する、という感じだと思います。

そして、もしも調停で話し合いがつかない場合は、『調停未成立』となり、さらに審判(裁判)に移行することになります。

裁判所で決める婚姻費用の額においても、決まった額があるわけではなく、夫の年収や妻の年収、子どもの人数や年齢などを考慮して決めます。

もしもご主人がこの決定に従わず、婚姻費用の支払いを拒否するような場合、E子さんは家庭裁判所に『履行勧告』を申し立てることができます。これは費用も掛かりませんし、手続きも簡単です。

ただ、履行勧告は法的な拘束力はないため、心理的に支払いを強く求める効果はありますが、支払いの強制まではできません。

もしもご主人が履行勧告にも従わない場合は、一段上の『履行命令』を裁判所に出してもらいます。これにかかる手数料は300円程度です。

ご主人が履行命令にも従わない場合、裁判所から10万円以下の過料の支払いを命じられます。

ただ、中にはその過料すらも払わない夫もいるようです。

そういう夫には、もはや強制執行しかありません。

つまり夫の預金や給料を強制的に差し押さえるという形です。

婚姻費用は生活費に直結するお金ですので、差し押さえが強化されている傾向があり、比較的短期間で差し押さえてもらえるようです。

差し押さえできる額は、夫の給料の2分の1までとなります。

今回のE子さんの場合、住宅ローンはご主人が支払っているということなので、2分の1までの差し押さえは難しいかもしれませんが、『夫は妻や子どもに、たとえ別居していても、自分と同等の生活をさせる義務がある』という点では、まぎれもなく法律違反と思われますので、強制執行できる可能性が高いと思います。

婚姻費用の額については、前述したように一定の額があるわけではないですが、あくまでも一つの目安として簡易計算できるサイトがありますので、こちらを利用されるとおおまかな金額が推測できると思います。

なお、ここの記事はあくまでも婚姻費用の未払いに対する参考資料です。
具体的な法的手続きや法律問題自体は、弁護士等へのご相談をお勧めいたします。

 不倫の公正証書を作る意味