その言葉は、もうわたしの心の中には届いていませんでした。
その夜私は、部屋の真ん中にうずくまるようにして、震えながら朝を迎えました。
明けてくる朝の光をぼんやりと眺めながら、私は、夫の別れると言う言葉を信じるしかない…それしかないと思いました。
私はまだ、絶望を受け入れられる心の余裕がなかったのです。
夫がいった、「別れるから」という言葉を、もう一度だけ信じよう。
たとえ今日からでなくてもいい。どれだけ時間がかかってもいい。
少しずつ明ける朝のように、わたしの幸せの日々は、きっとまた帰ってくる。
そう信じないではいられませんでした。
だって、幸せだった時間は確かに存在していたんです。
今はちょっと、そのレールを外れただけ。
少しだけ我慢したら、また必ずその幸せは戻ってくる。
私はそのかすかな希望にすがりつきました。
ですが、浮気を認めてからの夫の行動は、反省ではなく開き直りでした。
背広に女性物の香水の香りをつけて帰宅し、朝帰り、無断外泊…。
そのうち、家にお金を入れることさえ、ほとんどなくなりました。
その時の私は知らなかったのですが、浮気相手と部屋を借り、そこで生活をはじめていたらしいのです。
それでも私は、なにも言わずじっと我慢しつづけました。
情けないことに私は、一度幸せな時間を築いていた事実にすがりつくあまり、離婚を言い出されるのが怖かったのです。
きっと戻ってきてくれる。
浮気相手とはきっちり別れて、ここに戻ってきてくれる。
わたしは自分自身に言い聞かせ続けていました。
でも。
そんな思いは通用しませんでした。
あの電話がまた始まったのです。(続きはこちら)