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 「浮気」の罠に落ちるとき

 夫が浮気をした。

 これは、どう考えても夫が悪いです。

もちろん、それぞれの事情、言い分はあるでしょうけども。

同時に、妻が浮気をした。

これも、どう考えても妻が悪いです。同じく、理由はあれこれありましょうけど。

基本的に浮気は悪いし、そのことに言い訳の余地はない。

それは間違いない。

ではなぜ、その「浮気」をここではあえて「罠」というのか。

それは、浮気に走る本人さえも、

気がつかないうちにそうなってしまう「瞬間」があるからです。

浮気の対処方法を学ぶには、まず、パートナーがどうして浮気に走ったのか、

その過程を知ることがとても大切です。

もちろん、さまざまなケースがありますから、一概には言えません。

ですから、あくまでその中のひとつに過ぎないのですが、こんな例があります。


 あるOA機器メーカーの営業マンのAさん。

 社内でもトップクラスの営業成績をキープし、仕事をバリバリこなす33歳。

静かな住宅街に新居を購入し、奥さんと一人息子の三人暮らし。

まさに人生順風満帆、怖いものなし。

そんなAさんが、たまたま新しい契約を取りに入った中小企業のС社で、

受付事務をしていたE子さんと知り合いました。

活発というよりは、どちらかというと地味で控えめなタイプのE子さんは、

いわゆるイケメン系のスポーツマンタイプで、

もともと女性にはかなりモテていたAさんにとっては、

それほど意識の対象となる 女性ではありませんでした。

Aさん自身、ふだんからモテているせいもあり、

結婚している今でも、言い寄ってくる女性も少なくなく、

ある程度は彼自身もそうした女性に振り回されない自信というか、

自覚は持っていました。

ましてや、家にはかわいい奥さんと息子がいる。

念願だった一軒家も買った。

仕事も文句なしに順調で、何不自由なく幸せを満喫しているのに、

まさか自分が「浮気」に走るなんて考えたこともなかったといいます。

C社にたびたび足を向けてセールスを続けているうちに、

新型のコピー機を購入してもらえる話がまとまってきた。

どうやらE子さんが社長に購入を働きかけてくれたらしい。

「ありがとうございます!では今週中に納品させて戴くということで、

 早速手配させていただきます!よろしくお願いいたします!」

Aさん、絶好調です。

そんなこともあって、

E子さんとも多少は雑談をかわすくらいの間柄になってきた。

ところが一ヶ月ほどしたある日、C社から、

 購入したばかりのコピー機の様子がおかしい、という電話がはいりました。

電話をしたのは事務員のE子さん。

本社から連絡を受けたAさんは、あせってC社に出向きました。

時計の針は夕方5時半をまわっています。

今日はできれば早く帰りたいな、と思っていた矢先ですが、

そんなことを言っている場合ではありません。

なにしろ自分がセールスした新製品ですから、

マズい対応で相手を怒らせてしまっては、自分の信用にもキズがつきます。

もしも深刻な故障なら、すぐに本部に電話して回収するなり、

修理マンを派遣するなりしなければなりません。

C社につくと、会社はすでに業務を終えていて、

事務のE子さんだけが残って待っていました。

実はAさん、営業を始める前はメカニックの経験も少しあって、

多少のトラブルなら自分で治してしまう腕前の持ち主でした。

調べてあれこれ1時間くらいいじり回して、

ようやくコピー機が息を吹き返しました。

「ああよかった。これでなんとか自分の顔も立ちますよ」

ほっとして、顔をあげるAさん。

心配そうにその様子を見つめていたE子さんと目があって、

ぺこんと頭をさげる。

「とりあえず、明日、あらためまして社長さんにお詫びに参ります。

 今日は遅くまで申し訳ありませんでした」

お詫びをするAさんにE子さんは言いました。

「明日は、社長は夕方までいるはずですが、

 もしも急に留守にするといけませんから、

 Aさんの携帯の番号とアドレスをお教えいただけませんか。

 そのときはすぐに連絡を入れますから。

 あ、念のため、わたしの番号も教えておきますね」

「あ……そうですか。すみません。お手数かけます」

普通に考えたら、

仕事上の付き合いしかない営業マンと受付事務の女性が、

 携帯番号やメールアドレスの交換をするってのは、

あんまりないと思いますけどね。

まぁ、相手は親切で言ってくれてるんだと思って、

 AさんはE子さんに携帯とメルアドを教え、とくに必要とは思わなかったけど、

E子さんのそれも自分の携帯に入れておきました。

ただ、その翌日は結局社長さんずっと会社にいらっしゃって、

彼女からの連絡はなかったんですけどね。

Aさんは社長さんに頭をさげて、

「先日はどうも申し訳ありませんでした。

 うちの製品が原因で御社の業務に支障をきたしてしまって……」

そんな感じで恐縮しまくって頭をさげる。

ただ、このC社の社長さん。もともと気のいい人だから、あまりカリカリは怒らない。

逆に、律儀に謝りに来たAさんをたいそう気にいって、

それならパソコンも入れ替えようかなんて話になってきた。

これはもう、Aさん営業マンとしての腕の見せ所ですよね。

うまくいけば、近々パソコンまで買ってもらえるかもしれない。

余談ですが、こういうときはすぐにセールスの話に入っちゃいけないそうです。

いきなりセールスの話をすると、せっかく買おうという気になっている相手も、

たちまち買う気が失せる。

だから、とにかく、相手に話させる。雑談でも世間話でもいいから、

相手に話をさせて、自分は聞き役に徹する。

聞き上手になることが、とっても大切だそうです。

ところがこの社長さん、とにかく話好き。

ひとしきり話相手をさせられるハメになった。

正直、忙しいAさんにとってはツライ。

でも、お得意さんだし、新しい契約もしてもらえそうだからムゲにはできない。

実はけっこう、中小企業の社長さんって、

こういう話好きの人、多いらしいです。

「Aさんは、営業マンとしての経験は長いんでしょうな」

「いえ、それほどでもないですが、今年で7年になります」

「確か、営業部の主任さんでしたな。若いのにたいしたもんだ」

なんて話が延々と続きます。

そのうちお茶を替えに来たE子さんが、Aさんの左手の結婚指輪に目をとめ、

 「あらっ、Aさんって、ご結婚なさってるんですか」と話を振りました。

するとそれをきっかけにして、社長の話題は、

Aさんの結婚や子供のことに話が移っていきます。

「Aさんはもうご結婚何年目ですかな」

「あ、はい。結婚して2年になります」

「あんたの奥さんなら、きっとべっぴんさんだろうなぁ。お子さんは?」

「息子が1人おります。1歳になります」

「さぞやかわいいでしょうな」

「はい。妻と息子を幸せにすることが、私の夢ですから。

 念願の家も買いましたし、がんばらないと」

「ほぉぅ。若いのにたいしたもんですな。家はどちらに……」

な〜んて話が1時間以上続いたそうです。

(さて、さすがにそろそろ……)

Aさんもあせってきました。

次の訪問の予定もつまってますし、

いつまでも社長の機嫌とってるわけにもいきません。

でも社長さんはこの日は相当に暇らしく、

なかなか彼を解放してくれそうにもあまりせんでした。

(まいったな。)

内心、困り果てながら、事務机で記帳をしているE子さんに目を向けました。

ところが、今日に限ってE子さんはまるでAさんと目を合わせようとはしません。

それどころか、ずっとうつむいたままです。

仕方なく、とうとう、Aさんは切り出しました。

 「社長様、申し訳ありませんが、わたくし、そろそろ……」

 「お、おおっ、すまんすまん。つい、話が長引いてしまった」

すまなそうに謝りながら、社長さん、解放してくれたそうです。

さて、問題はこれからでした。

ようやく仕事が終わって、帰り道の途中。

不意にAさんの携帯がメールの着信を告げました。

見ると、C社の事務員、E子さんからでした。

そこには、こう書かれていました。

「今日で、仕事をやめることにしました。

 Aさんのこと、どうしても好きになってしまったんです。

 昼間、うちの社長とお話されている様子を見て、

 Aさんがどれほど奥さんとお子さんを大切におもっていらっしゃるか、

 痛いほど感じました。そんなあなたを好きになること自体、

 いけないことなのはわかっています。

 ごめんなさい。連絡は二度としません……お元気で」

いかにも芝居がかっていますが、

Aさんはすっかりこの「罠」にはまってしまったのです。

AさんはあわててE子さんに電話をかけ、

とにかく落ち着いて一度会おう、という話を取り付けてしまいました。

翌日、AさんはE子さんと会うことになり、

その日から、Aさんの浮気が始まったのです。

なぜ、そうなってしまったのか。

この場合は、E子さんは、あきらかな心理的陽動作戦を実行しています。

 仮にE子さん自身にその気がないとしても、です。

どういうことかといいますと、基本的に男性の多くは、

自分のことに好意をもってくれている女性が、

 それを告白して一方的に去ろうとすると、

引きとめようとする傾向が非常に強いのです。

たとえ、ふだん妻や子供、

 家庭のことを自分の身体以上に大切に思っている男性であっても、思いがけず

 「あなたのことが好きです。でも迷惑はかけたくないんです。さようなら」

 と切り込まれれば、離れようとするその相手の腕をつかもうとしてしまうのです。

まぁ、はなからまったく無関心な相手なら、この限りではないですけれども。

さらに、E子さんは会社の用件を口実に携帯番号とメールアドレスを

聞き出していますが、これもなかなかうまい手です。

一緒にお茶でも、という理由ならともかく、仕事上での連絡を理由にされたら、

まず断る男性はいません。

また、社長との話を介して、必要な情報を収集しています。

直接本人から聞きにくい話でも、第三者を挟んで、

その会話の中で適当に話題を振ることで、

カンタンに情報を得ることができるというわけです。

この方法なら、自分の住んでいるところや環境、家族のことなど、

つい話してしまいますね。

さらに、決め手はこの「別れのメール」です。

そもそも、なぜ、A子さんは、わざわざメールでお別れを言ってきたか。

本当に好きなら……まぁ、たぶん好きなんでしょうけれども、

本当に二度と連絡しないつもりなら、最後に声を聞くために

電話をしてくるのが普通だと思いませんか。

なのに、なぜ、メールか。

それは、Aさんに電話をかけさせるためです。

つまり、メールで、「妻子のあるあなたが好きだ。

 だからあなたに迷惑をかけないために、会社をやめて、私は去る」と、

 一方的に送られれば、男性は「せっかく好意を持ってくれた女性なら、

 もっと親しくなりたい」と恋愛的な欲望を持つようになります。

と同時に「自分のために仕事をやめることはない」というひきとめる気持ちが

働いて、多くの男性は、そのメールから緊急性を感じて、

自分から直接電話をかけてしまうのです。

つまり、好きだといって去ろうとする女性と、

ひきとめようと電話をする男性の図式がここにできあがります。

この時点で、二人の心理的な力関係は女性側の方が強くなってしまいます。

いつの間にか、男性は女性を追う側にまわってしまっているわけです。

そして、男性がかけた電話で、いきなり女性が泣き出したりしようものなら、

場合によっては、「いまどこにいるの。今から行くよ」ぐらいの勢いで、

男性が女性を追いかけ、とんでもなく急速に二人の関係は

接近していくことになるのです。


 ・・・・・・うそみたいですか?

でも、これと同じようなことが、

あなたのご主人の身に起こっているかもしれないのです。

これと同じことは、妻の場合でも同様にいえます。

例えば同じ職場で働いている男性、いつも行く店の店員、クラブ等でともに

活動する男性が、夫も子供もいると解っている女性を

好きになってしまった場合。

当初は男性が猛烈にアタックをかけていたとしても、

女性の場合は、自分には夫や子供がいるのだから、

道ならぬ恋をしてはいけない、と自分を制しようとする傾向が強いので、

一気に転がり落ちにくい。

ただ、その一方で、好きといってくれる男性に内心ときめいている部分もあり、

たまにデートをする程度の関係であっても、

「求められている幸せ」を感じているケースが多いようです。

こういう場合、もしも男性が、

 「考えたんだけど、やっぱりこういうのはよくないから、今日を限りに別れよう。

 君は夫との幸せを求めたほうがいいよ」などと言い出そうものなら、

 女性のほうはますます「あなたと別れるなんてできない」と、

 男性とのつながりを求めようとしてしまうケースが多いのです。

つまり、今まで女性を追っていた男性が、

 「こういうことは君のためによくないから」という理由をもって、

 自分からあえて引き離そうとすることで、

 女性の方は思いがけない相手の反応の変化に動揺し、

 なおさら浮気への加速度を高めていってしまうのです。

このように、本人に意思とは別のところで、

 ある意味相手に制御されてしまって、

 気がついたら浮気の関係ができあがっていた、というケースも、

 決して少なくないのです。

いわゆるプチ浮気、というものには、これが大多数を占めます。

逆に言えば、夫にせよ妻にせよ、この部分を自分自身が自覚し、

 頭を冷やして冷静に考えれば、

 自分が相手のペースで「浮気に走らされている」ことに気づくはずです。

もちろん、だからといって、浮気は浮気ですけれども。

ただ、自分で過ちに気づくことで、みずから関係を清算して、

 あなたのもとに戻ってくることが多いです。

そしてこれは最終的には、再び二度と浮気を繰り返さないための、

 非常に大切な安全弁になります。

 普通の方なら、一度だまされたら、操られた、と気づいて反省すれば、

 さすがに次はだまされないようにします、からね。