夫婦間で交わした誓約書について

あるご相談者様のケースです

『35歳の主婦です。夫の浮気が発覚しました。

いろいろウソをついていたことや、相手とのメールのやりとりなどを指摘して追及したところ、夫は事実を認め、『今後は二度と浮気をしない』と約束してくれました。

私は、口約束では困るので『もしも浮気をしたら、慰謝料を1000万円支払う』と誓約書を書いてください、と要求しました。

夫は、はじめは憤慨していましたが、『本気で浮気をしないと約束できるなら書けるはずでしょう?』と迫ると、しぶしぶながら誓約書にサインをしてくれました。

もしも夫が再び浮気をした場合、この誓約書で実際に1000万円を支払って貰うことはできますか?』

上記のようなケースで、その誓約書はどこまで有効なのでしょうか。

まず誓約書の内容が『慰謝料1000万円』というのは、ご主人の収入やどのくらいの資産があるかによって判断されるため、一概に高額とはいえないものの、いわゆる「相場」からみたらかなりの高額と考えてよいと思います。

なので、もしもこの内容で公正証書を作ろうとしたら、場合によっては公証人から金額の訂正を求められる可能性があります。

ただし、誓約書に書く金額をいくらにするかは自由です。

誓約書の内容としては、不倫を今後一切しないことの約束とあわせて、もしもその約束を破った場合の慰謝料の金額や離婚に関する条件書きなど、あなたが保障として求める内容を書き添えておきましょう。

さて、ご質問の回答ですが、もしもご主人の浮気が再発したときに、その誓約書を担保にして慰謝料1000万円を取れるのか?というと、『夫が支払いに応じる限りはとれるが、もしも婚姻中に夫が拒否すれば、取れない』という回答になると思います。

夫が拒否できないように誓約書を作っているなのに、なんで拒否できるの?と思われるかも知れませんが、実は、民法には以下のような条文があります。

(夫婦間の契約の取消権)
第754条 夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる。

つまり、夫が妻に対して誓約書を書いた場合、夫はいつでも「こんな誓約書は無効だ!」と一方的に破棄することができるということになります。

『じゃあ、こんな契約書は書くだけ無駄なの?』といわれますと、決してそういうことではありません。

なぜなら、夫婦関係を修復している最中に、夫が一方的に「あの誓約書は無効だから!」と言ってくるのは、ふたりの関係に水を差すことでしかなく、わざわざ一度治まった話をぶり返して、誓約書を無効にするようなことは、(普通は)しないだろうと思われるからです。

また、もしも夫の浮気が再発し、それがもとで離婚に至ってしまった場合、この誓約書はしっかり有効となるので、それ意味でも無駄にはなりません。

どういうことかといいますと、最高裁判所の判例によれば、第754条の「婚姻中」とは、夫婦関係が破綻した以降は含まれないと解釈されています。

要するに、夫婦が離婚したあとなら、夫は『こんな誓約書は無効だ!』といくら言っても、それはもはや取り消せないということです。

この夫は離婚後に、妻から慰謝料1000万円を求められることになるでしょう。

つまり、夫婦関係が良好なうちは、誓約書の取り消しを訴えてくることは夫が自らの首を絞めることになるのでやらないでしょうし、夫婦関係が破綻したあとでは、契約書の取り消しを夫が主張してもそれ自体が無効となるので、どちらにしても妻にとって悪い話にはならないということです。

夫の浮気再発が不安な方は、お考えになってみる価値はあると思います。

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